【3】
全3/35エピソード・完結
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 喉の渇きにむせそうになって、力のない身体を縮めると、男がそっと抱き起こして冷たいグラスを手渡してくれた。晴はそれを両手で受取り、口に含むとこくんと音を立てて喉に流し込んだ。  目を上げると感嘆の色を浮かべた黒い瞳に見つめられていた。心臓が小さく跳ね上がる。 「……とても、よかった」  何のことを言われているのかを理解して、晴は赤くなった。  考えると恐ろしい。  ハウスキーパーの面接に来て、その家の主人にレイプされた。大学生協のマニュアルにもない、とんでもない被害に遭ったのではないだろうか。  しかも…。  しかもそれを、受け入れ楽しんでしまった……。  自分のしたことに動揺が走る。 「ハル……」  男が改まった表情で晴の顔を覗き込んできた。 「相談なんだが、ハルを俺の専属ということにできないだろうか?」 (専属……?)  住み込みのハウスキーパーならば、普通は専属のような気がする。けれど、こんなことがあって、ここで働いて大丈夫なのだろうか。  だめな気がする。  混乱しながらも晴は思う。 「高城たかぎには俺から話をしよう。何か金のことで心配があるなら、それも俺が全部引き受ける。だから、ほかの客とはもう……」  寝ないでくれ。  告げられた言葉に驚いて、晴は大きな目で男を見返した。 「ほ、ほかの客……? ね、寝るって……?」 「ああ。だから、もう今の仕事は辞めて俺の専属になって欲しい。こんなことを言うのは恥ずかしいが、あんなに夢中になったのは初めてだ。ハルの泣き顔をほかの男に見せたくない。ハルがほかの男に抱かれるのが嫌だ」  晴は、まだ混乱している頭で必死に言葉の意味を拾った。 「だ、抱かれる……? ほかの……?」 「だめか?」  端整な美貌の男は、何かを期待する表情で晴を見つめている。  なんだか、大きな誤解がある。  けれど、どこでどう間違って、その誤解が生じたのかがわからない。  言葉に詰まって黙る晴に、男は聞いた。 「ハルも、あんなに感じていたじゃないか。満足できなかったとは言わせない。もともと希望して派遣されてきたんだし……。それとも、ほかにも誰か大事な客がいるのか……?」
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