裏の畑

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 あれは小学校5年生の夏の時だった。  暑い日差しの中。  裏の畑で友達とできの悪いスイカたちとスイカ割りをしていた。  海を知っている。  でも、僕たちは行った時はなかった。  大きな入道雲。潮の匂い。地平線まで続く大海原。想像はするけれど、ここは山に囲まれた小さい町。御三増(おみまし)町。 「右。左。もうちょっと左。あ、そこだ」  目隠しをして、棒切れを持った僕は友達の篠原君の言葉を頼りに、数十歩先のスイカを見事に一振りで割った。  スイカはパカリと割れて、中の真っ赤な実と種が辺りに散乱した。  スイカの匂いが強くなって、同時に緑の匂いと日差しの蒸し暑さが漂った。 「篠原君はいいね。篠原君の声を聞いていると、スイカのところへ簡単に行けるよ」  篠原君はタイガースの帽子を目深にかぶって、「当たり前だよ」と言った。 「篠原君。こっちもお願い」  藤堂君も目隠しをして、棒切れを構え。蒸し暑いスイカの匂いで嗅覚が駄目になる場所で、右へ三回クルクルと回る。 「もっと、右」 「こっち?」 「そっちは左。その反対」  いつもの学校帰りの遊びだったけれど、この日は空の傾く陽を気にしないほど夢中で遊んでいた。 「今度は藤堂君と篠原君の番。僕はここからスイカの場所を教えるよ」  遠くのカラスの鳴き声を聞いたようだけど、僕は今が何時だろうとは、その日は気にもとめなかった。  藤堂君と篠原君は畑の散乱するスイカの中央で目隠しをして、クルクルと回った。僕は友達にスイカの場所を教えようとしていた。  いつの間にか僕の鼻は、スイカの蒸し暑い緑の匂いとは違う異様な腐った臭いを吸い込んでいた。普通なら気付かないくらいの微かな臭いだ。  畑の奥で野菜がにょっきりと顔をだして、杉林の日蔭で暗闇が覆っているところだ。  蒸し暑い大根の葉の匂いに混じって、血生臭い腐臭が僅かに混じっている。僕は友達を残して、散乱しているスイカを足でどかして畑の奥へと歩いて行った。臭いがしていそうな畑の土を棒切れで掘り起こしてみた。  それは、小さい手だった。  初めは小さい白いカカシの手だと思ったけれど、臭いがそうじゃないと言っていた。人参や茄子が植えてあるところだ。杉林に近いところには大根が顔を出していた。
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