かくれんぼ

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 篠原君もさすがに怯えた目をして周囲を見回していた。  周りの子供たちはひそひそ話で留めているけれど、原因は知らないし、僕たちみたいに関係もしていないはず。  僕はまた優しい嘘を吐いた。 「きっと、大雨が降るんで、帰りが大変になるからじゃないかな? この季節だし」  藤堂君と篠原君は顔を見合わせているけれど、お互いその嘘にしがみつこうかと思案している表情だ。  僕は亜由美が心配だと嘘を吐いて、この列から離れることにした。  亜由美なら心配はしなくても大丈夫だ。きっと、こんな時にも体育館でみんなから少し離れて読書に没頭しているだろう。  確か亜由美は巌窟王やピーターパン。宝島などが好きだった。  僕は座っている子たちを避けて、屈み気味に体育館のステージの両脇の片方。横断幕が降りるところにいる校長先生と矢口先生。そして、他のクラスの先生たちが一丸となっているところの会話を盗み聞きすることにした。そのため一番近い1年1組のところへときた。  前の男の子は後ろの子とおしゃべりに夢中のようで、僕がその隣に涼しい顔で体育座りをしても気にしていない。体育館は杉林の覆うような日陰に対して弱い照明しかついていなかった。  学校の先生たちの言葉に耳を傾けていると、 「隣町の幼稚園の児童たちが、送迎バスで帰る途中にそのバスの中の全員が行方不明になったって……? 本当なんですかね」  羽良野先生は少し顎を引いて厳しい表情を作っていた。 「本当みたいよ。なんでも、帰りのバスが空っぽだったようで、運転手と保母さんもいなかったんですって。助かった他のバスの児童たちなんて、怖くていまだに泣いたりしていて夜も眠れないみたいなんです」  痩せている女の先生が自然と小声で話していた。  確か隣のクラスを担当している置田(おきた)先生だ。 「一昔前にもあったな。神隠しって、言われていたんだよ。その頃は」  初老の校長先生は眉間の皺を増やして訝った表情をした。 「先生。怖いこと言わないで下さい。昨日の夜に石井君の家の裏の畑に、とても精工な人形の手足がたくさん埋めてあったって、警察の人から電話がきたんですからね。すごく不気味だし。これで、もしものことが起きたら……」  羽良野先生は肩を摩っているが、背筋はピンとしていた。 「校長先生。その話って? S町のあれですか? 昔もありましたね。子供の大勢の誘拐事件」
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