裏の畑

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 僕はしゃがんで更に土を掘り起こすと、今度は顔がでてきた。こちらを見ているようだ。あるいは空にある天国を見ているような綺麗な目をしていた。僕と同じくらいの年の男の子と女の子たちの顔だった。  僕はそれらを観察し、他の部分の土を掘り起こすと、同様のものがでてきた。二つの綺麗な顔と三つの精工な人形のような手足。陶器のように真っ白な四つの胴。それらが生きている。そう、動いているんだ。  目は空を見つめ。何か言いたそうな口が少しだけ開閉している。手は握ったり開いたりして、胴体は呼吸をしているかのようにゆっくりと起伏をしていた。肉の切断面には赤黒い塊が所々に付着している。  やはり、微かな腐臭が漂っている。 「石井君。こっちにスイカがありそう? 石井君どこにいるの?」  遠くの篠原君が右に振り返っていた。目隠しをしているから僕が何をしているのかは解らない。 「石井君。足でスイカをふんじゃったよ。ちゃんと声を出してよ」  そんな友達の声が僕の耳に響いた。  ここから3メートル先の藤堂君は目隠しを取ろうとしていた。  僕はハッとして、素早くそれらを土に埋めて何事もなかったように、藤堂君と篠原君のところへと走って行って。もう遅いから帰ろうとだけ言った。  西の方の空には真っ赤な夕焼けができていた。  杉林の暗闇から男が一人こちらを見ていた。  僕の家はこの裏の畑に面している。  二階建てで、真っ白いペンキの家だったのだけれど、父さんが急に白い家だと金持ちだと思われるからと緑色のペンキを塗ったんだ。  白い家のほうが清潔でいいんだ。けれど、汚れが目立ってくるからけっこうペンキを塗り重ねしないといけないし。と、父さんが言っていた。  僕は藤堂君と篠原君と別れると。玄関を開けて真っ直ぐに二階へと駆け上がった。僕の胸にはざわざわとした捉えどころのない靄がいっぱい詰まっていた。吐き気や心臓の鼓動は何故か緩やかな波のようで、大して気にしなかった。  階段を上がって二階には四つの部屋がある。右側には二つの部屋があって、一つは妹の部屋。一歳年下の亜由美の部屋だ。もう一つは八畳間の和室になっていて、おじいちゃんの部屋だ。  左側にも二つ部屋があって僕の部屋と父さんと母さんの部屋がある。父さんと母さんの部屋には一度も入ったことがない。多分、そこも和室になっている。
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