異様

8/13
前へ
/110ページ
次へ
 僕は立ち止まって、静かにしていた。  開いている窓の外からは、生暖かい空気が風とともに吹いている。太陽は相変わらずさんさんとしていたが、雲に隠れてしまった。  心臓がこれ以上ないほどバクバク鳴っていた。  呼吸も忙しくなって、苦しくなってきた。  僕は静かに立ち止まる。  前方の教室から現れたのは大原先生だった。  顔が真っ青で今にも倒れそうに見える。 「歩君。きみは何故こんなところにいるの?」  羽良野先生は少し優しげだが、詰問気味に言った。 「先生? 僕はただみんなに内緒で何が起きたのかと、学校に侵入しちゃっただけです。この首を見てください。生きている。このままだと死んじゃう。早くみんなに知らせて病院に持って行かないと」  僕は羽良野先生が犯人だと確信した。  何故って、さっきは先生たちと用務員室へと行ったのだ。引き返す理由はどこにもない。その先生が現れた教室は1年1組だ。まったく、関係ないはず。  多分、用務員のおじさんの他の部位を隠しに来たはずなんだ。  後はこれからどうするかが、一番の問題だと思う。  僕が殺されては、裏の畑でのバラバラ生き事件と用務員のおじさんの事件の犯人は、見つからなくて終わってしまう。  助ける人が一人もいなくなってしまう。 「首? 何を言っているの? それは人形よ。歩君。こっちへ来なさい。家まで送るわ」  僕は首を地面に置くと、回れ右して全速力で走った。  後ろから羽良野先生の物凄い足音が追ってくる。  階段を急いで降りるような音に近かった。  僕は全速力で元来た体育館へと向かった。そのまま学校へ入って来たガラスの引き戸へと体をねじ込む。  何かが飛んできた。  体育館の壁に突き刺さった。  僕は怖くてそれを見もしないで、引き戸から外へと出た。  杉林の起伏を死んでしまうくらいに息を切らせて、走り出した。  滅茶苦茶に家まで走っていると、顔を出した強い太陽光のために、汗が滝のように湧き出て洋服がびしょびしょになっていた。まだ、足がガクガクと震えて宙に浮いている感じがしていた。いままで必死に走って来たから呼吸もかなり苦しかった。  家の玄関を開けると、驚いているキッチンの母さんと亜由美を気にせずに、すぐに自室へと向かった。  机で顔を伏せて考えた。  これからどうしよう。  そう考えていた。  もう学校へは怖くて行けない。
/110ページ

最初のコメントを投稿しよう!

42人が本棚に入れています
本棚に追加