裏の畑

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 おじいちゃんは昔、将棋の県大会で6年連続優勝をしていた。  僕は何か解らないことがあると、決まっておじいちゃんに話していた。 「よお。こんなに遅くにまで遊んでいたのかい?」  皺だらけで、ずる賢さが見え隠れしている顔の大柄のおじいちゃんは、ずる賢い顔を引きつって猿のように笑っている。薄い紫色の胸元を開けたポロシャツ。上質な鼠色のズボンを履いていた。真夏を過ごす恰好をしている。相手の幸助おじさんと、部屋の隅っこで将棋を打っていた。  和室にパチンと音がすると、幸助おじさんが唸りだす。  幸助おじさんは、いつも仕事帰りのようでお侍のような恰好をしていた。  そうだ幸助おじさんは隣町で剣術の師範をしているんだ。  僕はいつもの日常に、不思議と心のざわざわとした靄がなくなりだした。緩やかな吐き気や心臓の鼓動はぱたりとなくなっていた。 「……う……う、う」  幸助おじさんはまだ唸っている顔をして将棋盤に集中していた。  そんな唸り声を聞いていると、まるで石でできたような溝が深い顔の幸助おじさんが僕に首を向けた。 「今は夏だから遅くに帰ってもいいんじゃないの」  と、幸助おじさんは和室の壁の古時計を見た。  午後の6時40分だった。  和室には窓が二つあって、どちらも夕焼けの空からの涼しい風が心地よく通り抜けていく。押入れには使い古した布団と、おじいちゃんの大切なたくさんのトロフィーが隠してあった。茶箪笥には毎日一階からお湯を僕が持ってくるお蔭で、おじいちゃんの大好きな番茶がしまってあった。小型のテレビは部屋の隅っこにある。  幸助おじさんは隣町から、仕事帰りにたまにふらりと家に来ては、おじいちゃんと将棋を打っていた。 「ねえ、おじいちゃん。例え話だけれど……。子供はどれくらい水の中に入っていられるの?」  おじいちゃんは将棋を打ちながら、 「ほんの十五分くらいさ。水の中では息ができないからね」 「じゃあ、意識がなくなるまで息が止まったら?」 「さあ……。酸欠になって脳が死ぬまで4分くらいかな」 「もしだよ……。生き埋めになった人がいるとしたら、どれくらい生きていられるの?」 「ええと……。確か生き埋めになった人は48時間を過ぎると死亡してしまうと言われているんだよ」  パチンと音がして、 「王手!」 「あー! やられた!」  幸助おじさんの叫びが聞こえてきた。
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