大根

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 裏の畑に大根を植えて家に帰ると、幸助おじさんが二階に上がるところだった。 「歩くん。危ないから外へは出ない方がいい」  溝の深い顔で幸助おじさんは、顔を更に石のように固くした。 「うん。わかった」  また、おじいちゃんとひと勝負。幸助おじさんは勝負事にはうるさい。  夕方の6時に読書をしていると、一階から母さんがぼくを呼んだ。 「歩ー。羽良野先生が明日来るそうよ。なんでも、勉強や家庭のことを生徒たちに聞きに回ってるんですって。明日が歩の家の番だそうよ」  ぼくの心臓は一旦止まった。  深く深呼吸すると、今度はバクバクしだした。  気がつくと、洋服が汗でびしょ濡れになっていた。  ぼくは思考を全回転した。 「何時頃ー!」  一階の母さんに大きな声を出すと、 「午後の3時頃よー! 歩、遊ばずに家に居なさいねー!」 「わかった!」  さあ、どうしよう。  家の外へ出かけてしまって、その時間帯をどこかで潰そうか?  それとも、わざと捕まる方法もある。  外は急に大粒の雨が降り出した。  窓の外は真っ暗だった。  ぼくは読書を止めて、身を守るために何か対策を練ることにした。  幸助おじさんのいる和室へ向かう。  幸助おじさんは、おじいちゃんと対峙して将棋盤に凄い集中をしていた。 「ねえ、幸助おじさん。友達の持っていた映画を観て思ったんだけど。子供がナイフで刺されるシーンがあるんだ。ナイフで刺されたらどうしたらいい?」  幸助おじさんの溝の深い顔が強張った。 「応急処置でしょう。子供でもできるものを後で教えてあげる」 「まあ、圧迫止血とかは大人の力じゃないといけないだろうね。でも、子供でもできるのかな?」  おじいちゃんもずる賢そうな顔に青みができた。  それは、そうだろう。  こんな事件が周りに起きているのだから、不安な心を刺激しちゃったのだろう。  いらない心配をかけてしまったのだ。  でも、ぼくは必死だ。  羽良野先生は、多分ぼくを何かの理由で、車に乗せると人気のない場所で刃物で刺してくるんじゃないかな?  でも、車の中へ連れ込まれるとかなり危険だ。  首を絞めてくる可能性も否定できない。  幸助おじさんに色々と聞かなきゃいけないんだ。
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