裏の畑

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 小学4年生になっても、誰とも遊んだこともなく。一人で部屋で読書をしたりしている。まるで、自分の世界から一歩も外へと出なくても平気のようだ。おじいちゃんは、そんな亜由美をたまに、幸助おじさんと将棋に参加させていた。  父さんと母さんは、そんな亜由美のことを気にしているのだろうけど、言葉では今まで何も言わなかった。 「亜由美は電車に一人で乗れないなら、お母さんと一緒か歩兄さんと乗りなさい」  父さんは油多めの酢豚をご飯に乗せて、テーブルに置いた亜由美のA4ノートに何か書き出さないかと気を取られている。  亜由美は涼しい顔で、こくんと頷き野菜炒めを静かに食べていた。  その日、僕は塩と胡椒の香ばしい野菜炒めも、白い湯気のたった味噌汁の大根も食べなかった。漬物のナスもそうだった。  僕は裏の畑のバラバラにされても生きている子供たちに会いに、明日の下校時間に必ず一人で畑に行こうと決めていた。  お風呂の時も、歯を磨く時も、僕はバラバラにされても生きている子供たちのことを考えていた。  今は土の中で野菜と一緒に眠っているのだろうか?  寝息は土の中でどうしているのだろう?  明日になっても生きているのだろうか?    次の日。  僕は顔に当たる強い直射日光で目が覚めた。  午前の5時だった。  おじいちゃんはとっくのとうに、もう起きて台所で食べ物を漁っていることだろう。裏の畑も太陽の鋭い光で朝露がたっぷりとくっついた野菜たちが輝いていた。  僕は一階へと降りていくと、母さんが起き出した。母さんはいつもおじいちゃんの次に起きるんだ。  そして、僕はいつも三番目に起きる。僕がおじいちゃんのいるキッチンへと向かおうとすると、 「歩。おはよう。二階のおじいちゃんの部屋のポットにお湯を入れてあげて」  母さんの日常が始まった。  僕は毎日学校へ行く前に勉強をして、宿題も朝にしてしまう。夜はいつもは読書で、遊んでいる暇は学校帰りの裏の畑しかない。僕はテレビゲームもアニメも観たりやったりしなかった。そんな僕を周囲の人たちはとても賢い子だというけれど、自然とこういう習慣に少しづつ馴染んできただけだったんだ。  そういえば、昨日の土の中で生きている子供たちのことは二日前には気が付かなかったんだ。  どうしてだろう?  昨日まで腐った臭いがしなかったからだろうか?
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