限りなく近い0(ゼロ)

3/12
前へ
/12ページ
次へ
俊介「これ、今日給料日だったから・・・」 俺は二万円をテーブルに差し出した。 利治「ん、すまないな、」 親父はテーブルの二万円を手に取った。 その瞬間、奥の部屋の襖が開く音がした。 弟の直哉だ、いいタイミングで出てきやがる。 利治「お、直哉、」 直哉「・・・出掛ける。」 霞むような小さい声を出して、直哉は玄関に向かった。 直哉のことは、俺はよく知らない。 今も学校に行ってたら、多分、高校二年くらいだろう。 小学生のときはよく遊んだ、TVゲームをしたり、外でサッカーしたり、帰りもよく一緒に帰ったりした。 でも、直哉が中二の時に何かあったらしく、それから部屋に籠っちまった。 それから、俺は直哉のことをよく知らない、ろくに喋ったことがないから。 たまに、こんな感じでどこかに出掛けるときにすれ違うくらい。 服装は常にGパンとグレーのパーカー、顔を 覆い隠すような長い髪の毛。 利治「直哉、」 玄関に向かおうとしている直哉に、親父が声をかけた。・・・・またかよ。 利治「ほら、これ」 親父は早速、俺が渡した二万円を直哉に差し出した。 俺はただ、黙ってそれを見つめた。 直哉は二万円を手にとって、玄関から外へと消えていった。 親父は一息ついて、再び椅子に座った。俺は黙ったまま、自分の部屋に入ろうとした。 利治「俊介、ちょっと話がある。」 親父の声色でわかる、金が無いって言うんだろ、今まで聞かなかった俺も悪いけどさ、 俺は無表情のまま、席に戻った。 親父の顔を見ると、いつもの情けない顔とは違う、深刻な表情をしていた。 利治「実は、ここの団地の契約があと二ヶ月に迫ってるんだ、契約更新には二十万近くかかる、」 俊介「それで?」 親父は口を開きかけたが、また押し黙っちまった。なんだよ、これ以上言いにくい事があるのかよ。 利治「もう一つ、借金がある。これを返さないと、また借りることが出来ない。」 俊介「いくら?」 親父は黙って、俺にパーサインを見せた。 俊介「ご、五百万!」 親父は少し肩を落とした。これが親父なりの返事だった。 俊介「いつから借りてんだよ?」 利治「ん、母さんが出ていった辺りかな、だから・・・二年位か。」 俊介「何だよ、何で黙ってたんだよ!」 利治「いや、お前と涼香に迷惑掛けないようにと思ってな、」 俊介「結果的にすんごい迷惑かけてんだろ?」
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加