限りなく近い0(ゼロ)

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俊介「これ、今日給料日だったから・・・」 俺は二万円をテーブルに差し出した。 利治「ん、すまないな、」 親父はテーブルの二万円を手に取った。 その瞬間、奥の部屋の襖が開く音がした。 弟の直哉だ、いいタイミングで出てきやがる。 利治「お、直哉、」 直哉「・・・出掛ける。」 霞むような小さい声を出して、直哉は玄関に向かった。 直哉のことは、俺はよく知らない。 今も学校に行ってたら、多分、高校二年くらいだろう。 小学生のときはよく遊んだ、TVゲームをしたり、外でサッカーしたり、帰りもよく一緒に帰ったりした。 でも、直哉が中二の時に何かあったらしく、それから部屋に籠っちまった。 それから、俺は直哉のことをよく知らない、ろくに喋ったことがないから。 たまに、こんな感じでどこかに出掛けるときにすれ違うくらい。 服装は常にGパンとグレーのパーカー、顔を 覆い隠すような長い髪の毛。 利治「直哉、」 玄関に向かおうとしている直哉に、親父が声をかけた。・・・・またかよ。 利治「ほら、これ」 親父は早速、俺が渡した二万円を直哉に差し出した。 俺はただ、黙ってそれを見つめた。 直哉は二万円を手にとって、玄関から外へと消えていった。 親父は一息ついて、再び椅子に座った。俺は黙ったまま、自分の部屋に入ろうとした。 利治「俊介、ちょっと話がある。」 親父の声色でわかる、金が無いって言うんだろ、今まで聞かなかった俺も悪いけどさ、 俺は無表情のまま、席に戻った。 親父の顔を見ると、いつもの情けない顔とは違う、深刻な表情をしていた。 利治「実は、ここの団地の契約があと二ヶ月に迫ってるんだ、契約更新には二十万近くかかる、」 俊介「それで?」 親父は口を開きかけたが、また押し黙っちまった。なんだよ、これ以上言いにくい事があるのかよ。 利治「もう一つ、借金がある。これを返さないと、また借りることが出来ない。」 俊介「いくら?」 親父は黙って、俺にパーサインを見せた。 俊介「ご、五百万!」 親父は少し肩を落とした。これが親父なりの返事だった。 俊介「いつから借りてんだよ?」 利治「ん、母さんが出ていった辺りかな、だから・・・二年位か。」 俊介「何だよ、何で黙ってたんだよ!」 利治「いや、お前と涼香に迷惑掛けないようにと思ってな、」 俊介「結果的にすんごい迷惑かけてんだろ?」
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