限りなく近い0(ゼロ)

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ロボットや何かのヒーロー、そして昔、直哉と夢中で見てたアニメのフィギュアが所狭しと並べられ、その真ん中で、親父が呆然と立ち尽くしていた。 涼香はゆっくりと部屋に入り、入り口の横にある押入れを開いた。 涼香「ヒャアーッ!」 押入れの中は、俺が小学生の頃流行った戦隊ヒーロー『カイセンジャー』の様々なバージョンのフィギュアが飾られていた。 『カイセンジャー』は土曜の夜八時から放送してた番組で、 赤の「シュリンプ」、 青の「オクト」、 緑の「ツナ」、 黄の「シェル」、 ピンクの「サーモ」と、 それぞれ海の生き物をイメージした隊員が、悪と戦う、ていう設定だった。 俺は少し驚いていた。直哉は覚えていたんだ。 昔、俺とテレビをかじる様に、この番組を見ていたことを。 何故そう思ったか、色々と思い出した。直哉はあの時、黄の「シェル」が好きで、今、押入れにあるフィギュアも「シェル」が圧倒的に多い。 涼香「わあ、懐かしい!私ピンクの「サーモ」持ってた!」 俊介「そうそう!涼香、確か片時も離さなかったな、」 涼香と笑い話を始めたが、後ろにいるはずの親父が一向に口を開かない。 親父は押入れの一点を見つめていた。何を見ていたのか、答えはすぐに分かった。 親父はゆっくり、俺と涼香の間を入って押入れの目の前に立った。 すると、『カイセンジャー』のフィギュアの中から、一体を取り出した。 俊介「ん?なんかそれだけ色が違うな、」 俺はまた、思い出した。 直哉が小学生の頃、家族みんなで水族館に行ったことがある。 その水族館は、『カイセンジャー』のイベントをしていて、今親父が持っているフィギュアは水族館の限定モデルで特別販売していたものだった。 あの時、直哉は親父に散々ねだった挙句、土産屋から離れなかった。 親父は、困った顔をしながらも直哉に「シェル」を買ってやっていた。 フィギュアを手に入れたときの直哉の笑顔、その顔を見て、親父も顔がほころんでいた。 親父は、そのフィギュアを手にとって、恐らくその時のことを思い出しているんだろうか・・・ 涼香「この方たち、どうやって処分しましょう・・・」 俊介「フィギュアって、ビニールで出来てるんだっけか?」 涼香「雑誌は資源ゴミでいいとして、後は?燃えるゴミでいいのかな?」 親父は、俺たちの会話に目もくれずに、布団の上に座り込み、ひたすらフィギュアを見つめていた。
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