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そうかい、と優しく言う男の声は冷たい。鉄の雨に全身がびりびりと痺れていた。そうだね、と男はまるで我が子がわがままを言うから、妥協案をどうにか出すお父さんのような柔らかさだった。
「そしたら、君の妹がしたわるぅいことは、償ってくれるんだろうね?」
「るうがなにをしたの?」
さっ、と姉は顔色を変える。男は数歩、姉に歩み寄る。
「私を殺そうとしたんだ。悪いことだろう?」
「るうが、そんなこと、するかしら」
ことり、姉が首を傾げた。わたしは痺れる両手を握りしめる。雨が、雨が、雨が降っている。
「ねぇ、お兄さん、あなたの勘違いではないのかしら」
「ナイフを突きつけられたんだ」
姉がこちらを見ているのはわかった。わたしは目を伏せる。今日は雨が降っているから、空気が水分を含んで重たいから、だからまぶたが重くて。ねぇ、ねぇ、わたしの優しい姉は、なんて言うの?
「ナイフを。るうが」
「そうだよ」
「……ねぇ、るう」
姉の声に、自然と目線が上がる。鋼鉄に反射する毒々しいネオン、雨で視界は悪く、しかし姉の静かな表情ははっきりと見えた。いつもの無邪気な姉では決して見れない表情で、わたしの両手ががたがたと震える。
「るう、あなたが違うって言ったら、わたしはそれを信じるのだけど」
雨が降っている。
「けど、るうは、嘘がつけないの」
雨が降っている。
「お兄さん、わたしに銃をちょうだい?」
「おや、どうしてだい?」
「わたしの妹を許してはくれないのでしょう。そうなのでしょう。だから、わたしが代わりに死ぬしかないのでしょう」
ばちん。近くの店の明かりが一つ消える。ばちん、ばちん、閉店の時間、終わりの時間、断罪の時間!
「まって、」
声が上手く出せない。のどが焼けたのだろうか。わたしは、わたしは、鉄の雨を口に含んだりしてないのだから、それは決して、決して、決して!
「待って!」
「取引は成立だ、優しいお姉ちゃん」
「あらいやだ。そうやって呼んでいいのは、その子だけなんだから」
姉がくすくすと笑いながら手を差し出す。男が歩み寄る。姉のあまりに細すぎる手には不釣り合いな銃が渡される。わたしは、震える手をついて、どうにか立ち上がる。
「ねぇ、待ってって。ねぇ!」
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