記憶

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 まだガキの頃、ふざけてオヤジのペンダントを盗もうとしたことがある。  寝ている隙に、こっそりオヤジの首に手を伸ばした。  しっかり見つかって、鞭打ちされたんだ。    それ以来、オヤジの物には手を出しちゃあいない。 「なんだ?」  鼻の先を真っ赤にしたオヤジが尋ねた。  ――酒に弱くなった。  敵に殺される前に、酒で死ぬかな? 「いや、そのペンダントを見たことが無かったなあってね」  甘い香りのラムを口に含んだ。  オヤジがシャツの中のペンダントヘッドを取り出し、掌の中に収める。    ガーネットが埋め込まれているのは知っている。だが、細かい細工は見たことが無い。 「これは墓場まで持っていくんだよ。ほかの宝物はくれてやっても、この首飾りは俺だけの秘密だ」 「ずいぶんとロマンチストだな。  オヤジに墓など持てるはずもねえのによ」
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