フツウに、なりたい。

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そう考えたら、予知夢を見ることは マイナスばかりじゃないと思えてくる。 生きる上でのこの障害を 病気か何かのように薬や手術で 完治させることは出来ない。 だからこそ、 この特異な性質に生まれついた 宿命となんとかうまく 付き合いながら、 プラスのことも確かに あるんだと、そう前向きに考えて、 これからは生きていこう。 人はいつか皆、死ぬんだ。 フツウの人と同じように、 俺も寿命が来ればいつか死ぬ。 ならばせめて、 少しでも明るく毎日を生きて、 プラスの夢を見ることを糧に 生きていこう。 せっかく、楓ちゃんが変えてくれた 『生きる』という 運命を無駄にしないようにーーー。 「そう言えば、昨日、柚ちゃんから メールが来たの」 物思いに耽っていた俺の耳に 母さんが懐かしい名前を告げる。 「柚から?」 「今、休暇中で 東京に遊びに来てるんだって」 「懐かしいな…………」 鹿島柚ーーー俺の大学の山岳部時代の 同級生だった。 かなりの美人で山岳部のエーデルワイス とかなんとか呼ばれていて、確か、 卒業後に海外の商社で働いていると 聞いていた。 母さんの店にはよく、山岳部仲間と一緒に飲みに集まっていた 飲み仲間の一人でもあった。 母さんと気が合うのか、名前で呼び合い、 当時二人でご飯を食べに行ったり、 買い物に行ったりしていたのは知っていたが、 今でもメールし合う仲だったんだな。 「そうだ、柚ちゃんも呼んじゃい ますか?」 母さんはにんまりと笑って、 早速メールを打ち始めた。 「郁が首を長くして待ってます、送信」 「え?ちょっと、母さんっ」 「……ふふっ、冗談よ」 俺は胸を撫で下ろし、笑った。 「なーんてね、送っちゃった」 「え~!」 「恋しなさい、新しい恋が 道を開くこともあるわ」 母さんは明るく笑って俺の肩を バシンと叩いた。 ーーー母さん、ありがと、な。 俺は久々の再会が少し楽しみになり、 スピードを少し上げた。
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