道のりは遥か先に。

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杏子さんに抱きつかれながら、そんなことを 思い、同じように抱きつかれてる翔君は見たら、私は固まってしまった。 彼は私の顔を見つめていて、そして 端正な唇のはしっこに うっすらと笑みを浮かべていた。 え?…笑ってる? …やばい、このひと、 なんて天使な麗しい笑みなんだろう。 さっきまでの毒舌な人間が持てるもの とはとても思えない。 あどけない、無条件にみていたくなる… そんな微笑みを浮かべて私をみている。 そんな私に翔君は百年のトキメキも 一気に醒めるようなことを言い放った。 「…悪いけど、誰でも笑うから。 温泉浸かりすぎて 湯立ったサルみたいな 女が真横にいたら」 …ひとが一生懸命に手伝ったと思えば、 なんて、失礼なヤツ!! 私はムッとした。 なにそれ、湯立ったサルって…! やっぱり、こいつは顔だけで、 性格が最低の最悪で嫌なヤツだ…。 もうこいつがどんなことをしても、 さっきみたいにドキドキなんか、 するもんかーー。 私はそう、心に決めた。 その決心がやがて揺らいでしまうように なることを、ーーその時の私には 予測すらつかなかった。
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