フツウに、なりたい。

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虹彩岳の山頂に着いた俺は、 息を切らしながら あいつの姿を探す。 山頂には珍しく誰もいなかった。 雲はずっと下にあって、蒼く澄みきった 空には大きな虹が美しく浮かんでいる。 …………どこだ? その時、俺の後ろの茂みがガサガサ っと揺れて、俺は振り向いた。 「あれ?……翔さん??」 あいつは目をパチパチさせながら、 茂みから顔を出している。 その頭にも顔にもあちこちに草や 葉っぱがついている。 「…………お前、何、やってんだ?」 あいつは、茂みから抜け出て来て、 俺にはい、とスーパーにあるような 白いビニール袋を差し出した。 「松茸、この先にいっぱいあったから」 俺が袋の中を見ると、松茸、いや、 松茸によく似たーーー猛毒キノコが ワンサカ入っていた。 「ね、スゴいでしょ? 今晩は松茸ご飯にしません? 私、作ります!」 と、あいつは自慢気にニコニコと 俺に笑いかけた。 俺はあいつの額に手を伸ばした。 「痛っ」 炸裂した俺の指先に あいつは額を抑える。 「な、何すんですかっ」 「お前な、毒キノコ食わせるほど、 俺のこと、キライか?」 「へ?毒キノコ??」 「こんだけ食べたら数分後には 意識朦朧として、死ぬ」 「ひっ」 あいつは今まで自慢気に 手にしていた袋を放り出す。 まるでマンガみたいなリアクションに 俺は思わず笑ってしまう。
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