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柑橘系は下心
誰と誰が抗争して、どことどこがいがみ合っている、何て所属している場所によって異なる。そんな事は分かってる。だけど、何でそうなったのかが、分からない。お互い、っていうより俺が一方的にって言った方が正しいかもしれない。――好きになったのは、××でした。
「……んだよ」
目の前に居る人物を睨みつける。路地裏で不良が喧嘩することなんて良くある事だ。だけど、あんまり変に目立つのも後々面倒だからしたくない。気が弱いわけじゃないけれど、ただ、コイツを倒してまで自分の地位を上げたいわけじゃない。
「睨んでねぇで言いたい事あんなら言えよ。めんどくせぇ」
目の前の人物は長い髪を揺らしながら低く声に出す。その髪を結ったらどんな風になるんだろう何て思いながらも、染められた金髪に手を伸ばそうとして、すぐにポケットに仕舞った。俺が今しようとしたことは普通じゃない。そうだ、普通じゃない。
「あ? お前、何してんだ?」
「何でもない」
笑顔で返しつつも体内に宿る塊を押さえつける。駄目だ、此処でしてしまったら取り返しがつかない。場所的には暗いし、誰も近づかないから声が届くこともないだろうけれど、だからと言って今この場ですべきことじゃない。だから自分の敷地に戻ろうと足を動かして通り過ぎようとすれば、金髪の髪から僅かな香水の匂いがした。匂い自体は好い匂いだ。俺が好きな柑橘系で、甘ったるいわけでもないさっぱりした匂いなのに、普段、そんな匂いしたことないから、気になってしょうがない。
「……誰かに貰ったの? すっごい香水の匂いするけど。お前香水なんてつけたっけ? いや別に良いんだけど、お前が香水つけようが、つけないが。柑橘系の匂いが好きならそれで良いけど、俺はどっちかって言うとトロピカル系が好きだな。特に女の子のあまーい、匂いとか」
少し、悪態をついて嘘を言った。自分で買ったなら別に構わない。けれど、誰かに貰ったんだったら、憎い。そんな俺をお前はどう見るだろうか。変わった奴と言うのかそれとも、気持ち悪いというのか、くだらねぇというのか。
「…………。いや、別にただの興味本位だ。それ以外はねぇよ」
じゃぁな。そう言ってお前はその場から去って行った。俺は後を追いかけることを躊躇って、そのまま自分の所属している場所に戻った。
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