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圭が嫌そうな顔をした。察してくれたようだ。
「電話で済むならそれでもいいんだけど」
「いや、その……」
雑巾をバケツに沈めた圭が、もごもごしながらうろたえる。それを黙って見ていると圭は観念したように、肩を落とした。
「電話じゃ話、聞いてくんなかった。リートに言われてたけど、親父は俺に会いたがってるみたいで、顔を会わせないと話を聞かないって電話切られたんだ」
「なら行くしかないよね」
圭はずっと母親と暮らしてきた。それは圭の母親が父親の愛人で、一緒に暮らせなかったからと聞いていたけど、父親は圭の事を案じていたらしい。
本妻が亡くなった後、圭が高校三年になる年、圭と母親を家に呼び寄せたそうで、引っ越し、転校という流れになったそうだ。
リートさんともそれからの一年間だけ一緒に暮らしたそうだ。圭は高校を卒業してすぐに就職、寮のある会社に勤めたけど、数ヵ月で辞職……。
二十歳まではどうしてたか知らないけど、僕のアパートへ転がり込んできて、今は職を探しながら暮らしている。
僕のアパート所に来て三年、一度も家に帰った事はないそうだ。
「圭が嫌なら、僕も一緒にいく」
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