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アパートのコンクリートの床を見つめていたら、圭の手が僕の帽子を取り去った。
日影になっている玄関の前で圭の顔を見上げると、夏の太陽と同じくらい眩しかった。
「気になる?」
「なにが」
「俺の事。知りたいか、伊万里?」
それとも無計画って言われて拗ねてるだけ? と圭が笑う。いじわるだ。
僕はさっさと歩き出し、日影を出た。真昼の強い日差しが影の中の圭を見えにくくする。
「無計画で悪かったね」
仕方ないでしょ、知らなかったんだから。知らなかったっていう事を忘れるくらいに、自然に"行こう"と思ったんだから。
「知りたいよ、圭の事。なんでも教えて」
広い肩を軽くすくめた圭が日影から出てきた。顔なんか見なくてもわかる。眩しすぎて見えない。
もうどうしようもないって感じに、満面の笑みで圭は言った。
「おっし、じゃあ行くか!」
ぽす、と僕に帽子をかぶせる事を忘れない圭。
先を歩いていく圭の大きな背中を、僕は少しだけ軽い足取りで追いかけ、隣に並んだ。
「なぁ、伊万里」
「なに、圭」
「昼メシはどうする?」
「……さっきご飯食べたばかりだよ」
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