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一緒に暮らしてわかった事。
そいつは、料理ができない。
電子レンジすら使えない……というか、キッチンに入る事を制限した。冷蔵庫を開けるのは、飲み物を取り出す時だけ。
この部屋はオープンキッチンというよりも、キッチンの延長にリビングがあるような間取りだ。
「腹減ったー、腹減ったー」
と歌うように催促する男は、リビングの真ん中に置いた丸いちゃぶ台を前に座っている。
年期の入ったちゃぶ台は、中古の家具屋で格安だった。一人暮らしならこれで十分だと思ったのに、不思議と同居人と一緒に使っても、なかなかちょうどいいらしい。
「待ってね、今作るから」
冷蔵庫の中身を思い出しながら、無駄にその大きな体を揺すっているだけなら何かしてもらおうと「洗濯機、まわしちゃおうか」と脱衣所に足を向ける。
「俺やる! だから、メシ!」
と言う男に「はいはい」と返事をしながら洗濯カゴを渡すと、バタバタと寝室へ向かった。
バサバサと布類が音を立てている。あいつはガサツなところがあるから、そのうち。
「イッテ! ……あっ!」
ガツン、とぶつかる音がしたと同時に、短く声があがった。
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