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どこかにぶつけたり、転んだり。ガサツなだけ……なのかな。
「どうしたの、圭」
廊下に顔を出すと、大きな背中を丸めた男、圭(けい)が涙目でこちらを見た。
その後ろで不気味に音を立てていた扉が、さらにぎぎぎと傾いた。扉の上の蝶番が浮いている。かろうじてネジが一本引っ掛かっているという有り様。
その扉のそばでしゃがんでいる圭に「危ないよ」と声をかけようとしたけど一歩遅かったらしく、扉が揺れた拍子に下の蝶番までもが完全に外れた。
「……え、ぅわぁぁぁぁ!」
ゴツンという固い音が圭の悲鳴を打ち消す。その場から一歩も動けなかった僕はやっと頭を切り替え、駆け寄り扉を持ち上げた。
「……大丈夫、圭」
「頭ぶつけた……いてぇ」
扉を立てて壁に立てかける。頭のてっぺんを撫でる圭が、涙目で僕を見た。
その瞳の中に"恐れ"を見つけた僕は、圭の次の行動を待つ。
「……ご、ごめん伊万里!」
0.2秒で土下座をし、今度は額を床に打ち付けた圭を、黙って見下ろした。
圭の行動は予想がつかない。
そんな圭を無表情に見つめながら、いったい何があったんだと、ため息。
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