第8章

55/55
54人が本棚に入れています
本棚に追加
/545ページ
さらに。 「できねぇの? 無理なの? やめるの? ヘタレか」 「うわ、圭にだけは言われたくない」 思わず素が出た早坂にうなずきかけて、圭の胸板に頬擦りした。圭の手が髪を撫でてくれる。早坂に見せつけるかのように。 「で、どーすんだよ?」 どうしても圭は言葉にして欲しいらしい。それは僕もそうだ。早坂の口から聞きたい、言ってほしい。 あーもう、と早坂が頭を掻き回したのが目を閉じたままの僕にもわかった。 「やめてなんか、やんねぇよ。覚悟しろよ、圭。おれの方がずっと伊万里を愛してる」 「……ぬ」 そこで引けをとって悔しそうに声を出す圭は、やっぱりちょっと情けない。でも、僕を抱く腕の強さは変わらず、やさしくあたたかい。 「伊万里も。圭みたいなヘタレよりおれの方がいいって言うまで……親友でいてやるよ」 素直なようでそうじゃない、早坂の複雑な言い回し。 僕らはこうやって確認しあいながら、これからもつるんでいくんだろうななんて思うと、二人と出会えて、同じ時間を過ごす事が出来てよかったなと思えた。 二人が何を話しているのかもうわからなくなった頃、僕は眠りに落ちていた。
/545ページ

最初のコメントを投稿しよう!