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夜目は角田の書いたストーリーを見ていた。
『ここは真面目なリーマンが悪と闘うシーンで、地味だがコミカルな描写にしてくれ』
『昨日とは違うっ』
『練り直したんだ』
《本当は昨日のようにやらせたいが、
俺はおまえとのコンビは嫌なんでね!
悪く思うなよ!
角田くん!
編集長の嫌う描写でいかせてもらおう!》
――夜目は意地悪く笑った。
『あらぁ!斬新ねぇ!
夜目らしくない』
『でしょう~!』
このやり取りはまたしても角田が帰った後になる。
ストーリーを書いた用紙をめくる彼女を、
観察していた彼は心の中で小躍りする。
『角田の押しに負けてたまには譲歩してやる昔馴染みの優しさですよ』
『斬新ねぇ…』
『新人賞は間違いないつくりですが俺とのコンビは解消ですね!?』
『最近マンネリ化した新人が多いのよね、
エスケープ出版も例になく』
『そう思います』
『だからよ!角田くんは違う売り出し方をしたいの!今までとは違うコミカルな作風でね』
『えっ…―――?』
『あたしの目は誤魔化せないわよ?夜目ちゃん。
あたしが嫌うアイテムや描写!
あなたのアイディアでしょ?』
『はぁぁ?』
『あたしは夜目ちゃんを見てきたのよ。
夜目・角田コンビで脱線路線でいきましょう!
エスケープ出版の異色コンビの誕生ね!』
『編集長―――――!』
叫ぶ夜目の頭を撫でる彼女が愛しそうにささやいた。
『あたしってサドだから』
***
角田はそのコミカルな作風で新人賞に応募。
遥香は子供達を連れてエスケープ出版に時々来るようになった。
『あらぁ!限定シュークリーム!』
『角田がいつもお世話になります』
女編集長は食べ物に弱い!
『よく冷えてる、食べ頃かしら?』
缶コーヒーでお茶にする。
『心配しなくていいわ。
あたしが保証する!
来年はあなたのご主人の本が店頭に並ぶわ』
シュークリームを2つ頬張る編集長は、
食べ物にも未来の作家を見る目も確かだった。
『美味しいわね!このシュークリーム』
***
そして編集長の言うとうり角田恵は晴れて新人賞をとった。
『よろしく!担当は夜目ちゃんだから』
『ぎゃあああ――!』
夜目のうめき声が受賞会場隅でこだました。
『あたしってサドだから!ついでにあたしと結婚しない?』
夜目はまた絶叫した!
『入社当時から夜目ちゃんを気にいっていたのよ』
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