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『ただいま』
あの再会の場所から車で40分、主要道路をはずれマンションや民家が並ぶ方に右折する。
2分も走ると角田一家が住む一軒家が見え頬を緩ませる角田がいた。
『ただいま』
『おかえりっ!原稿持ってないって出版社の人に見てもらえてる?
良かったね~、あんなに頑張ったんだもん』
栗色のショートカットの遥香が嬉しそうに出迎える。
『あっ、忘れた』
『忘れた?どういう…』
『たぶん捨てられてる…また描きなお…ううん。
子供た…
うわっ正樹!膝に体当たりすんなっ』
角田の腰あたりまでの正樹は6歳になり、週刊コミコミの入ったコンビニ袋に手を伸ばした。
恵と遥香は二十歳で籍を入れ、その年に長男が産まれ二男‥三男‥長女と毎年家族が増えていった。
長男二男の影響か三男の正樹は漫画雑誌に興味を持つのも早く、
幼稚園で平仮名の入ったオモチャで覚えた文字を読みたくて仕方ないらしい。
あるいは角田のDNAからなのか。
週刊コミコミは小学生を対象とした漫画雑誌、小さな正樹は平仮名だけを読んで笑ってる。
『正樹…お兄ちゃんに頼まれたのか?』
正樹の髪を撫でる。
『オマケの怪獣シールついてるもん』
たしかに今週号には怪獣シールつきだと表紙に書いてあった。
『正樹8時過ぎてるぞ、お兄ちゃん達とおやすみの時間だ』
手を繋いで子供部屋へと連れていく。
だが出迎えは嬉しい角田は正樹にゆるくハグをした。
《夜目は原稿を返すつもりはないだろう…
子供達や遥香の為にもアルバイト生活から脱しなければいけない…
漫画で芽が出るのだろうか?
粋にスーツを着こなした夜目は哀れみの目を向けていた気がする…
スーパーの仕事で家計を助けてくれる遥香にも申し訳ない…》
夜目の遥香へ向けた同情の言葉に拳を握る。
《ごめん!遥香!
いい暮らしさせられなくてーーー》
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