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一方の夜目は苛立たしくそのまま担当する作家のマンションへと向かい、
次の日の昼過ぎにエスケープ出版の編集部でパソコンを打っていた。
変わりものの女編集長が夜目をチラリと見る。
『腹が減ったわぁ~、定食屋があたしを呼んでんのよっ。
夜目ちゃんつき合いなさいよ~』
眼鏡を外し伸びをする彼女は催促とばかりにデスクをパンパンと叩いた。
『夜目夜目夜目夜目~、腹が減った~っっ!』
『またタクシーがわりに俺を利用するんですか?
他にも車持ってる奴いるじゃないですか』
『あたしスーツフェチだもん、夜目ちゃんっていつもスーツでしょ~。
連れて歩きたいじゃない』
『はぁあっ?
そういう理由で俺を食事に誘うんですか?』
『腹が鳴る、腹が鳴るぅ~。
夜目ちゃん司ちゃん~』
心の中で嫌みたらしく舌打ちをする。
《上司だし編集長だし…
これが遥香だと俺は喜んでエスコートしたであろう!かわいいセーラー服のポニーテールの遥香は今どんな風に変わっているだろう…》
ガシッ‥
腕にまとわりつく編集長の目が飯だ飯だと訴えるように歩きだす。
『ちょっ…引っ張らないでくださいよ』
『早くしないと日替わり定食の大盛りサービスなくなっちゃう』
白いブラウスの下は赤いタンクトップ、ジーンズの彼女は振り返り口をとがらかせた。
『夜目ちゃん早くしないと~定食屋がコンビニ弁当にすり変わっちゃうわ~』
小さくもなく大きすぎないエスケープ出版の5階のビルから出て、白の愛車を定食屋に走らせた。
それから1時間後満足そうに店を後にする2人。
『眼鏡拭いていいかしら』
編集長は後部座席のティッシュに手を伸ばした。
『このくたびれた封筒って何?』
それはあの夜に角田が落とした原稿であった!
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