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数日後エスケープ出版の一室で角田は緊張しながら差し出された手を握った。
『あの原稿を拾っていただいてありがとうございます』
普段アルバイト生活でラフなTシャツにジーンズの彼は紺色のスーツで落ち着かなくみえた。
女編集長はシャツ・黒いパンツ・パンプスという服装でいつもの彼女だった。
ただ夜目が毛嫌いする角田恵に興味津々の目線をむける。
『失礼ながら原稿見させてもらったわ。
あなた漫画家志望なの?』『諦めかけそうな瀬戸際ですけど』
『あたしは漫画はあまり詳しくないけど。
背景・セリフ・人物と線が一緒でごちゃごちゃとしてわかりにくいのよ。
ペンに慣れていなくて漫画以前にペンに慣れる事とデッサン力を身に付けなきゃいけないわね』
『………』
『なぜあなたが?
っていう顔をしているわね。
待って!まだ話は終わっていないわ、座ってちょうだい』
角田はエスケープ出版そのものが漫画を扱わないと知っていたのだった。
わざわざスーツを着て訪問したのは女編集長が直々に電話をしたからである。
『呼んだのはね漫画家より小説家が向いているんじゃないかって教えたくて』
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