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どれくらい経っただろう。
太陽はもうかなり高い位置から地上を照らしている。
目を覚ました青年は“ヤバ……”という表情を浮かべて腕の時計を見た。
少し伸びををすると辺りをキョロキョロと見渡し、しばらくボーッと遠くに見える噴水の白い水しぶきを見つめていた。
やがてシャツの胸ポケットに何か入っているのに気がついて、そっと抜き出してみた。
白いメモ用紙に幼さの残るブルーの文字が並んでいる。
『ごめんなさい。
大切な物を盗んでしまいました。
でも、もう二度と扉を開けることはしません。
ほんとうにごめんなさい。 そして ありがとう』
しばらく青年はじっとそのメモを見つめて何か考えていたが、やがて肩をすくめてつぶやいた。
「やっぱ、わかんないや。女の子って」
右手で髪をクシャッとかき上げて立ち上がり、もう一つ伸びをした。
ちらりと見た携帯に4件の着信履歴。
「……怒ってるかな、坂木さん」
心配性の相棒の顔を思い浮かべてクスッと笑うと、少し急ぐようにポケットに手を掛けて歩き出す。
その胸元には何も語らない銀色のクロスがキラリと光っていた。
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