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「マイケル、今夜は何処をうろついてたのさ」
マキの意識のスイッチがONになる。
とたん、マイケルの記憶の断片がマキの意識に流れ込んだ。
ノイズの混ざったモノクロのスライド写真のようにマイケルの記憶の映像がマキには見える。
いつの頃からだろう、この特殊な能力に気がついたのは。
素肌で人や生き物に触れると断片的な記憶の映像や感情がマキには読みとれてしまう。
今ではONとOFFを切り替えられるようになったが、この能力のおかげで辛い思いをいっぱいした。
他人の赤裸々な感情なんて、知らないほうが幸せだ。知らないから生きていける。そう悟った。
だから今は、記憶を読むのはマイケルだけにしている。
「またミーコを追っかけてたんだね。これじゃストーカー猫だよ。……あれ?」
マイケルの記憶の中に暗闇で蠢く人影が見えた。
TVでよく見る赤外線暗視カメラの映像のようにマイケルはその人物を捕らえていた。
さっきの男だ!
近くのマンションの入り口のオートロックをカードで解除しようとしているのだが、明らかに普通じゃない。
何か機械のような物を差し込んで不正にロック解除しようとしているのがわかる。
ロックが解除されると注意深く辺りを確認して男はその中に消えていった。
―――泥棒なの?
その後の記憶は曖昧で、マイケルの視線でのマンション裏の散策映像に変わり、その後はさっきマキが見た場面だった。
この辺りをうろついた後、再びマイケルはあの男に出くわしたのだろう。
「ふーん。おもしろいじゃないのマイケル。わくわくしてきた」
その時、さっき男が立っていた場所で何かが光った。
近寄ってみると、シルバーのクロスのペンダントだ。
細い鎖が切れている。
誰かの肌を放れてまだそんなに時間が経っていないのだろう。少しも汚れていなかった。
気のせいか、温かさも感じる。
朝の光にキラリと光るそれを拾い上げると、マイケルを高い位置からポンと降ろして、マキはニヤッと笑った。
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