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本当に何も知らないのかしら……。
パトカーや泥棒という言葉に必ず反応すると思っていたマキは、心の中で舌打ちをした。
昼間そのマンションにパトカーや救急車が来て騒ぎになったのは本当だった。
わくわくして野次馬に話を聞くと中年男性が部屋で一人、亡くなっていたそうだ。
心臓発作だろうということだった。
事件じゃないのか……と、マキは少しがっかりした。
けれど、もしかするとこの男の窃盗はまだ発見されていないだけなのかもしれない。
「きのう……夜中にマンションの前に居ませんでした?」
意を決し、マキは男の目を見ながら切り出した。
「僕が? どうして?」
―――やった、ごまかした! これはもう絶対だ!
「前を通ったとき見かけたような気がしたから」
少し興奮して挑むような口調になったのでマキは内心シマッタと思った。
男はすっと首を伸ばすように立ち、ちょっと眉をひそめるようにしてマキを見つめた。
「何を見たの?」
表情のないトロンとした目でゆっくり近づいて来る。
猫に怯えていた人物と同じとは思えない、感情の読めない目。初めてマキは少し恐怖を感じた。
一歩、後ろに後ずさる。心臓の鼓動が早くなる。
―――だいじょうぶ、表通りはすぐそばだし人通りもある。……だいじょうぶ。―――
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