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いったいこの人はなんだろう。
何だかいきなり現実にひきもどされて、さっきまでのワクワク感が消えかけている。
それに子供扱いされているような感じがしてイライラした。
カマをかけたらきっと何かボロを出すと思っていたのに、乗ってこない。
―――けれどきっと何か悪いことをしているに違いない。
話してるうちにきっとボロを出すに決まってる。
女子高生が窃盗犯を逮捕、なんてちょっとかっこいいじゃない。
マキはポケットの中の鎖を掴むと、男に見えるように目の前に垂らした。
冷たく光るクロスを見た瞬間の微妙な表情をマキは見逃さなかった。
「これ、あなたの?」
「ああ、……そう」
「どこに落ちてたか知りたくない?」
「え?」
「あのマンションの入り口よ?」
―――さあ、何て言うかしら。
男はしばらくマキの顔を見ていたが、やがて可笑しそうにクックッと笑った。
マキにはそれがバカにしたような笑いに見えた。
「あそこには行ってないって言っただろ? たぶんここで落としたんだ。ありがとう。拾ってくれたことには感謝するよ」
マキの中で何かがブチンと音を立てた。
この人も私をバカにしている。不良でタチのわるい馬鹿なガキだと思っているんだ。
急に目の前の男がたまらなく憎らしくなった。
ペンダントの鎖を無言で男の方に突き出すと、男は少しとまどうように右手をゆっくり差し出してきた。
鎖を男の手に掛けると同時にマキはその手をグッと力一杯掴んだ。
「 ON 」
それは正に5年ぶりの「人間」への“行為” だった。
その瞬間流れ込んできた鮮烈な感情にマキは呼吸が止まるかと思った。
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