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【4】
ホテルの一室。
ダウンライトだけの明かりの中、窓の外の夜景を見下ろしながら、髭の男はソファに座りパソコンに向かっている青年に話しかけた。
「やばいんじゃないのか? 陽。 その女子高生」
話しかけられた青年は少し意外だという様子で画面から目を上げ、髭の男を見た。
「大丈夫だよ。仕事を見られたわけじゃない」
そうしてまた画面に目を落とす。
「じゃ、なんだろうなぁ、その子の思わせぶりな態度は」
「女子高生だからだろ?」
青年は素っ気なく言う。
「んぁ??」
髭はいつまでも画面を見つめている青年に近づき、向かいのソファーにドスンと座った。
「本当に女子高生と猫は嫌いだなぁ、お前」
「キライなんじゃないよ」
「じゃ、なんだ」
「苦手なんだ。何考えてるか分からない子は、怖いんだ」
髭の男は少し小馬鹿にしたようにクフフと笑った。
「そんなもんかねぇ」
青年は画面を見つめたまま愛嬌のある目を細めてニッと笑う。
「そんなもんだよ。……でも」
「ん?」
「何か気になったんだ。今日の子はね。危ういっていうか……」
しばらく部屋にはやわらかいジャズと髭の男の吸うタバコの紫煙だけが緩やかに流れていた。
髭は向かいの青年の胸元に光るシルバーのクロスを静かにじっと見つめた。
壮絶な過去の記憶と血を吸い込んだ十字架。
母親の形見であると同時に、この青年の枷なのだと髭は思っていた。
自分を張り付ける十字架を、青年はきっと一生放すことはないのだろう。
長い間黙って見つめたあと、髭はまたゆっくり立ち上がった。
「明日、その子に会いに行くのやめとけよ。面倒なことになったら大変だからな」
今度はチラッと髭を見上げて青年は少し笑った。
「分かってるって」
―――絶対こいつは行くんだろうな。いつまでも子供みたいな所がある。
髭はまた窓の外の夜景に目を移し、あきらめたようにため息をついた。
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