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そろそろ日が暮れるか・・という時間になって、ようやく俺たちは腰を上げる。
横浜に自宅がある俺と違って、卓は広島の出身だ。
学校の近くにある、陸上部の寮に奴は下宿していた。
本来その寮は、通常は2年からの入所だ。
1年の時は各々自分で下宿先を用意し、1年間の練習に耐えて部を続けることができたものだけが、今度は強制的に入所する。
特待で入学が決まった卓は、4年間の継続を約束されていたからか、すでに2・3年生と共に生活していた。
1年でそこにいるのは卓一人だったからさぞかし窮屈な思いをしているかと思いきや、毎日そんな風に俺と過ごしていたものだから、決まった夕食の時間ギリギリで食堂に入るというマイペース振りだったらしい。
ベンチを立つときのお決まりのセリフは、こうだったな。
「優も早く、寮に入れればいいのに。そしたらわざわざここで過ごすことも無いんだ。」
腹が減ったというのは口実で、卓は優と過ごす時間を持ちたくて、そうしていたんだよ。
俺たちと一緒に帰るため、いつも笑顔で待っていてくれた百合音が、卓が亡くなった後に教えてくれた。
特に何をしゃべったという記憶もない。
だけど、俺にとってもその時間は、今でも煌めく思い出のひとつだ。
ただ、隣に卓がいた。それだけで、良かったんだ。
*
俺たちにとって第一の関門は、10月に行われる箱根駅伝予選会だ。
まずはこの予選会を10位以内で突破しなければ、本番への切符は手に入らない。
20kmの距離を、各大学1チーム10~12人の選抜メンバーで一斉に走り、成績上位10名の合計タイムで競われるこの予選会は、最期の最後まで蓋を開けてみないと結果が分からない。
たった1秒の差が、10位と11位を分けるというドラマだってあるのだ。
それが走っている間に目に見えて分かるものではないから、予選会に出場するということは、ある意味箱根を走ることよりもプレッシャーが大きいのかもしれない。
6月あたりから、徐々にこの予選会に向けての準備が始まる。
各選手の状態を詳細に把握しながら、予選会メンバーと本番メンバーの選出を慎重に行う。
エントリー資格に“大会出場申込回数が4回以内(予選会・エントリーのみでも出場とみなす)”という規定があるため、やみくもに強い選手ばかりを投入することは出来ない。
本命の選手を予選会にエントリーすれば、本番にエントリーできない可能性が出てくる。
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