夢のカケラ

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シード権があれば、この駆け引きに悩まされることも無いのに。 とにかく俺たちの大学には、すべては10月の予選会がスタートラインだ。 部員は20人ずつのチームに分けられて、チームごとにコースとスケジュールを回しながら練習を重ねる。 10kmコースを走り込んでスタミナをつけ、二日に一度20km走ってペース配分を体得する。 一週間ごとに20kmコースで正式にタイムを計って、チーム内上位5名のタイムが部室に貼りだされる。 互いに切磋琢磨し、貼りだされたタイムを見ては闘志を燃やす。 部員は皆仲間であり、ライバルだった。 卓は上位タイムの常連で、さすが特待生と、監督や部員の信頼も厚かった。 Aチームに所属していた俺はEチームの卓の様子は分からなかったが、Eチーム専属マネージャーに着いていた百合音が、帰宅時に随時様子を教えてくれた。 普段人懐こい卓だけど、コース上ではまるで一匹狼のように黙々としているのだという。 他の人間にはまるで目をくれず、ひたすら自分自身に向き合っているようで心配だと。 俺はそれでもいいじゃないか、最終的には自分自身との闘いなんだからと思っていたけれど、駅伝はやはり仲間との絆が大切だよって百合音はいつも言ってたな。 彼女があまりに気にしているようだったから、俺の方から卓に話をしたことがあった。 練習に集中するのはいいことだけど、もっと周りも見て他人の状態も気にした方がいいと。 それが駅伝で仲間同士を思いやる絆に繋がっていくぞ、と。 卓はキョトンとした表情で俺を見ていたっけ。 「・・・そんなこと、言われたこと無かった。そっか、個人戦じゃないもんな。俺、気づいてなかったよ。」 そうだよな、今までは自分のタイムと向かい合うことを求められていた世界だったんだもんな。 「サンキュな、優。」 こんなに実力があれば、プライドが高くてアドバイスを受け入れない奴もいるだろうに、卓はどんな話もしっかり自分の糧にする。 実際話の翌日には、早速周りの人間に気を配っている様子が伺えたと、百合音が嬉しそうに話してくれた。 多分、この頃にはもう百合音は卓のことが好きだったんだろう。 俺は単純に、入部初日に出会ったから他のヤツよりも身近な気持ちになっているんだろうな、という程度にしか認識してなかった。 あの日の衝撃の告白。
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