夢のカケラ

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いつの間にか付き合いだしていた二人を、祝福しつつも寂しかった俺は、もしかしたら酷いことを言ったかもしれない。 あの時、百合音がもうひとつの決断をしていたら、今、俺はこうして笑えていただろうか・・・。 * 10月の予選会は、大会6位の成績で突破することができた。 他の大学はどうか知らないが、俺らの大学の予選会メンバーは3、4年で構成されていた。 その際、箱根を走ったことがあるメンバーはエントリーから外し、まだ一度もエントリー経験のないメンバーを優先的に選出する。 なるべく部員全員に走るチャンスを与えるためと、主力メンバーの温存を兼ねた監督の計らいだ。 その予選会で頭角を現したメンバーは、もちろん本番のエントリーも期待できる。 夢の舞台に立てるかもしれない、という想いが、予選会選抜メンバーの士気を高めた。 無事箱根への切符を手にした瞬間から、本番に向けての猛烈な追い込みが始まる。 ここで今までのチームを一旦解体して、タイプ別にチームを編成しなおす。 それが箱根区間にそのまま結びつく。 俺と卓は、ここで同じBチームに所属した。 これは区間で言えば、往復の表裏、2区と9区に相当する。 両区の特徴をしっかり捉えて、それに合わせたトレーニングを積み重ねる。 そして、チームから各区の走者を選出して箱根にエントリーするという方法だ。 エントリーから漏れた部員は、サポーターとしてサイドからチームを支える。 例えば、コース途中の給水だ。 エントリーされていても、本番では選手以外はすべてサポーターになる。 誰もが選手を支えられるように、あらゆる場面を想定しながら何度もコースの確認を行っていく。 テレビや、沿道での応援では見えなかった裏方の大きな力は、こうして作りあげられていくんだ・・・。 ここに来るまでは、走ることだけを夢見てきた。 でもそれだけじゃない、ひとつの目標に全員で向かっている勢いの中に居られることが、俺を熱くさせていた。 11月から卓は上級生に混じって部活後もトレーニングを続けていて、例のコンビニパンの時間は自然消滅していた。 12月が近づくと、いよいよ最終調整に入っていく。 陸上部は授業も欠席して、ひたすら練習に明け暮れていた。 12月頭、出場メンバー登録締切日前日、部員全員の前で正式にエントリーメンバー16名の発表があった。
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