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 来たことのない場所だ。  ここが森のどの辺りなのか全く見当もつかない。  途方に暮れてサンザシを見上げていると、何か、土や石ではないものを踏んづけた。  あわてて足を退かすと、そこにあるのは一冊の本だった。  そこそこ値の張りそうな、革で装丁された大型の本。しおしおに枯れ果てたクローバーが表紙を囲うようにして彫り込まれ、その中心にはのびのびと天を仰ぐ白いチューリップと、何かの花だったのだろう枯れた植物が彫り込まれている。  変なの、と僕は呟いていた。  白いチューリップはいいとして、わざわざこんな薄気味の悪い枯れた植物なんか、彫り込まなくてもよかっただろうに。  拾い上げてみると、その本は思いの外軽かった。  ペラペラと本文をめくってみたけれど、中は白紙で、奥付もない。  本に気を取られていた僕は、背後から音もなく接近してきた何者かにいきなり後頭部を打たれて、思いっきり地面に倒される。  痛みを堪えて顔を上げると、一匹のフクロウがじっと僕を見下ろしていた。どうやら彼の翼で打たれたらしい。 「オ、オルドヌング?」  確かにあのフクロウは、オルドヌングだ。でも、こんな時間に外に出ているのは珍しい。  オルドヌングはふいと僕に背を向け、音もなく空中を滑空すると、少し先にある木の枝にとまり、ちらりと僕の方に視線を寄越す。 「……もしかして、道案内してくれるの?」  驚いてい固まっている僕に再び背を向け、枝から離れるオルドヌング。僕は大急ぎで立ち上がると、オルドヌングの後を追いかけた。
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