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 帰りの道は、ミルト姉さんと並んで歩いた。  くすぐったいような、気恥ずかしいような、落ち着かない気分になる。 「ところで、ノイギーア。その本、どうしたの?」  サンザシの木の下で見つけたヘンテコな本を、僕はちゃっかり持ってきていた。 「うん、森で拾った」  例の困った顔をするミルト姉さん。  ミルト姉さんのお小言が始まると、長い。僕は誤魔化すようにあわてて言った。 「ねぇ、この本、なんかヘンテコなんだ。表紙も変だし、中身は真っ白だし」  言って、白いチューリップと枯れた植物の表紙をミルト姉さんに向ける。 「ほら、変だよね? わざわざこんな枯れた植物、表紙になんてしなくてもいいのにって思わない?」 「……」  ミルト姉さんは本を見て、はっとしたように立ち止まる。並んで歩いていた僕も一緒に立ち止まり、キョトンとしてしまった。 「……ミルト姉さん?」  本を凝視するミルト姉さんの様子が、なんだか変だ。  まるで本にとり憑かれてしまったかのように、食い入るように見つめている。 「ミルト姉さん、この本、知ってるの?」 「え?」  ミルト姉さんが驚いたように僕を見た。やっぱり、なんか変だ。 「この本、知ってるの?」  もう一度、僕が少し強い口調で言うと、どこか気の抜けたような様子で首を振る。 「いいえ。知らないわ」 「どうしたの? なんか変だよ?」 「なんでもないの。さぁ、帰りましょ?」  再び並んで歩き出すけれど、もうさっきまでのくすぐったいような、気恥ずかしいような気持ちにはならなかった。  そんなにこの本が気になったのかな、と思ってまじまじと表紙を見つめ、おやと首をかしげる。  白いチューリップの隣には、確か、枯れた花が彫り込まれていたはずだ。  なのに、今、白いチューリップの隣には滲むような鮮やかな色の青いアジサイがあった。
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