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 日に日にミルト姉さんが本を眺めている時間は増えていく。真夜中にふと目が覚めてトイレに行くとミルト姉さんの部屋の明かりがついていて、こっそり覗くとあの本を眺めていた、なんてこともしょっちゅうだ。 「その本、森に戻した方がいいんじゃないかな?」  思いきって、僕はミルト姉さんに言ってみる。  ミルト姉さんはいつものように本を開き白紙のページを撫でていて、ちらりとも僕の方を見てくれない。 「必要ないわ」 「でもさ、ミルト姉さん……」  食い下がろうとすると、ミルト姉さんは本から顔を上げた。冷たい眼差しで僕を睨み、温度の感じない声音でつまらなさそうに言った。 「あなたはただ、また森へ行く口実がほしいだけでしょう?」  何を言われたのかすぐにはわからなかった。  ミルト姉さんは本を置き、僕の肩を乱暴に掴む。 「必要ないの。あなたが本のことを気にする必要も、森へ行く必要も、全くないの。それともあなたは、私のこと、困らせたいの?」  違う、と言おうとした。  困らせたいのではなく、ただ心配しているのだと。  最近のミルト姉さんはなんか変だから。  こんなふうに肩を掴んだり、冷たい眼差しをしたり、決めつけるようなものの言い方をしたり、今までのミルト姉さんからは想像もつかないことをする。  どうしちゃったの?  僕は、どうすればいい?  何か言わなくちゃとは思うものの、何を言えばいいのか、うまくまとまらない。  ミルト姉さんの冷たい目を見ていると、だんだん怖くなってきた。ミルト姉さんはミルト姉さんのはずなのに、目の前にいるのが全く知らない人間だとしか思えなくなって、混乱する。
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