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 部屋の隅で無関心にくつろいでいたオルドヌングが動いた。羽を広げふわりと滑空して、ミルト姉さんに軽く体当たりする。  ミルト姉さんは驚いて僕の肩から手を離し、忌々しげに腕を振った。手加減なしに大きく振られた腕をオルドヌングは危なげなしに避け、置きっぱなしになっていた本を足で掴み、窓からさっと飛び立っていく。  僕はとっさにオルドヌングを追いかけて外へ走り出た。  ミルト姉さんが背後で何か言っていたけれど、振り返らない。振り返らない、というより怖くて振り返れなかった。  あんなにミルト姉さんになついていたオルドヌングが、あんなにやさしかったミルト姉さんが、どうしてこんなふうになってしまったのか。  その答えが、オルドヌングの持ち去ったあの本にあるはずだ。  大きな本をぶら下げたオルドヌングは、それでも地面を走る僕よりも速く移動していく。  見失わないように必死で追いかけていると、オルドヌングはまっすぐにフルーフの森へと入って行った。   森に入ってすぐ、僕はとうとうオルドヌングを見失ってしまった。それでも、オルドヌングが飛んでいった方角にひたすら走る。また迷子になるかもしれないとも思わなくはなかったが、オルドヌングとあの本を見つけられず、ミルト姉さんが元に戻らなくなることの方がずっと恐ろしかった。  どれくらい走ったのか、見覚えのある場所にたどり着き、立ち止まる。小高く土の盛り上がったところにサンザシの木が生えている、あの本を拾った場所だ。  弾む息を整えながら、僕はオルドヌングと本を求めて周囲に視線をさ迷わせる。
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