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――またなの?
しゃがみこみ、湧き水で口の中をすすいでいると、お隣さんの声が頭の上から降ってきた。 私は苦笑いで返事をする。声を出す元気もなかった。
身体中が熱を持っていて、ぐらぐらする。あざに効く薬草は、どこに生えていただろう?
――ねえねえ、そんなつらい思いばかりするくらいなら、ワタシたちのところへいらっしゃいよ。みんなグリュックのこと、歓迎するわ。
リンリンと鈴をころがすような涼しい声で、いつものように誘ってくるお隣さん。
それに対して、私もいつものように首を横に振って断る。
――あら残念。
ちっとも残念ではなさそうな言い方だ。
お隣さんはひらりと私の目の前におどり出て、たまった湧き水の表面に降り立った。ふうわりと、水面にやさしく波紋が広がり、水が静かに光を帯びる。
――かわいそうなグリュック。
かわいそうと言いながら、お隣さんは全然かわいそうだとは思っていないのがわかる。
なぜなら、楽しそうに、歌うように、そしてイタズラを思い付いたこどものように喋るから。
――フルーフの本はいかが?
フルーフの本、と呟いてみる。でも、呟いてみたところでそれがいったい何のことなのか、さっぱりわからない。身体も頭も、熱に浮かされていて、まともに何かを考えることなんかできなかった。
――こっちにあるの。ついてらっしゃいな、グリュック。
ぴょこんぴょこんと跳ね、お隣さんは手招きをする。
――グリュックはこっちへ! グリュックはこっちへ!
私はぼんやりする頭を軽く振ってから、呼ばれるままにお隣さんの後について行く。
こうなってしまったら、もうなにを言ってもお隣さんは聞いてくれない。お隣さんの気がすむまで、言う通りにしてあげるのが一番だった。
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