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ⅩⅠ
「人間……ですよね。あなたは」
ミルト姉さんよりも年上だけど、学校の先生よりもずっと若い。こんな女の人が、森で何をしているんだろう? それに、女の人の言っている言葉の意味はわかるけれど、なぜそんなこと聞くのだろう?
「僕が人間以外に見える?」
好奇心がむくりと湧いた。
突然隣から話しかけられたから驚いたし、家の中をこっそり覗き見しようとしていたのはばつが悪かったけれど、それよりも目の前にいる女の人のことが気になった。
怒ったわけでも責めてるわけでもないのに、女の人はなぜか怒られたこどものような、おろおろとした態度になる。でも僕は気にせず、思い付くままに言葉を重ねた。
「僕が人間以外のなんだと思ったの?」
「ここに住んでるの?」
「一人で? それとも他の人もいるの?」
「住んでいるなら、いつから? 僕、何度もこの森に入ってるけど、全然気づかなかった」
「それに、どうして森に住もうと思ったの?」
勢いよくまくしたてると、女の人は気圧された様子でじりじりと後退する。
「ねえ! それから、それからね……」
ぐう、と変なタイミングで僕のお腹がなって、僕と女の人はちょっとの間顔を見合わせた。困った表情ばかりだった女の人が、ようやくちょっと笑ってくれる。
「お腹が減っているのですか?」
囁くような小さな声で女の人が言った。
僕は急に恥ずかしくなって、赤くなりながらも首を縦に振る。
「……あなたの話を聞かせてください。その、出来ればあなたの、その本……フルーフの本、について」
女の人が僕の持つ本を指差した。
「フルーフの本? これが?」
女の人は静かにうなずく。
フルーフって、あのおとぎ話のフルーフのことだろうか?
それとも全く関係ないフルーフさんが作った本ってこと?
それともそれとも、フルーフの本、っていう題名の本なのかな?
……確実なのは、女の人がこの本についてなにか知っているってことだ。
くるくると僕が考え込んでいると、女の人は困った表情で、でもきっぱりと言った。
「私はその対価に、あなたに食事を振る舞いましょう」
僕の現金なお腹がさっきよりも大きくなって、女の人が今度は小さく声を出して笑う。
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