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 お隣さんが案内してくれたのは、森の中でも西よりの、私がまだ足をふみ入れたことのない場所だった。  小高く土の盛り上がったところに、サンザシの木が生えている。サンザシをちらりと見上げ、木々の間から夕闇のせまる空が覗いていることに気がついた。 ――ワタシたちは別にかまわなかったのにね、フルーフったら酷いことするの。  前を行くお隣さんの声が、少し低くなる。 ――ワタシたちの道の真ん中に家をたてちゃったのは、まあ、おおめに見てあげたんだよ? 邪魔だけど、ワタシたちは道を行き来することができれば、うんうん、行き来さえできれば、それでいいからね。なのにフルーフったら、ワタシたちが通り抜けできないように、家のドアというドア、マドというマドを閉めきっちゃったの。酷いでしょ?  あいもかわらず身体は熱を持っているのに、背中ばかりがゾクゾクとしていた。めまいと吐き気で、もうこれ以上は歩けないと思って立ち止まると、ちょうどその時、行く手に一軒のこぢんまりした家があらわれる。  ドアというドア、マドというマドが壊れ、そこからうかがえる家の中も滅茶苦茶に荒らされていた。 ――だから少し、こらしめてやったの。  シャンシャンと不思議な音をたてて、お隣さんが笑った。  私はふらふらと家に近寄り、壊れたドアから中に入る。途端にヘンテコな匂いがした。たくさんの花の匂いと草の匂い、それから土の匂いが少し混ざったような、ヘンテコな、むずむずするような匂い。背中のゾクゾクがうすれて、少しだけ楽になる。  こじんまりした部屋に、様々な植物が吊るされていた。それに、小さなテーブルと壊れたイス、ベッドと作り付けの棚があり、床にはドアとマドの破片や、棚に片付けてあったのだろう木のコップや茶碗、分厚い本などが散乱していた。  分厚い本を一冊拾い、床に散らばる他のものはよけて、私はベッドに向かう。少しでいい、ほんの少し、横になって休みたかった。  ベッドの上に乗っていたドアかマドの破片を床に落とし、本を枕に素早くベッドに寝ころがる。あっという間にお隣さんの声も遠のき、すとんと眠った。
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