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4
あたたかい風がほおを撫でる。
なにか、なじみの深いさわり心地のものに触れたような気がして、私はそっと目を覚ました。
日が高くのぼっている。それを壊れたマドから眺めて、私はがく然とした。少しだけのつもりだったのに一晩も眠り込んでしまった。今ごろ両親はカンカンに怒っていることだろう。
それだけじゃない。見れば、荒れた部屋のどこにも、お隣さんの姿がなかった。
両親とお隣さん。どちらも、絶対に機嫌を損ねてはいけないのに。
私は頭を抱えて泣き出してしまいたいのを必死でこらえ、ベッドから身体を起こす。
指先につと、何かあたたかいものが触れた気がした。見るともなしにちらとだけ目をやると、昨日枕にした分厚い本がある。
瞬間、私は本から目が離せなくなってしまう。
咲き乱れるクローバーは、朝露に濡れたかのようにみずみずしく表紙を囲い、その中心にはのびのびと天を仰ぐ白いチューリップと、凛とした気品を漂わせる黒いユリが彫り込まれている。
吸い寄せられるように手をのばし、本の表紙に指を這わせた。どこかなじみの深い、あたたかいさわり心地がして、さっきまでの泣きそうな気持ちはどこかへ行ってしまった。
ぎゅっと胸に抱き寄せると、心の底からふつふつと元気が湧いてくる。
うれしくなって、私は本を抱えたままドアもマドも壊れた家を飛び出し、森を駆け抜けた。
身体がとても軽い。どこにも痛いところがないし、熱っぽくも、悪寒もしない。
私はますますうれしくなって、一目散に両親の待つ家へと戻る。
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