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 はたして、森にフルーフの本はあった。  森の中でも西よりの、サンザシの木の下に。  夢で見たまま、月の光を浴びてきらきらと輝いている。しばらく見惚れていたけれど、ひょいと拾い上げ、胸に抱えた。フルーフの本は一瞬だけ強く輝いてから、私の胸の中で安心したように光るのを止める。  月明かりのもとで、私はそっと本を開いた。個性的な文字たちが自由にページを埋めているのを丁寧に眺め、時折指でなぞってみる。  聖書で使われている字と、フルーフの本に使われている字は、似ても似つかない。  薬を求める人の中には字が読める人もちらほらといたけれど、きっとこの本を見せても、読み解くことなんてできないに違いない、と私は確信していた。  本を閉じてサンザシの木を見上げる。木々の間から大きな月がこちらを見返すのを感じてうれしくなった。  一人じゃない、と思う。腕の中にあるフルーフの本とこちらを見守る月の存在に、満ち足りた気持ちになる。  ところが、穏やかな心にさっと不穏なものが走った。なにかの視線を感じたのだ。辺りを見回してみるが、人も獣も、お隣さんの姿だって見えない。  首をかしげて、もう一度じっくり辺りを観察してみる。かすかになにかが動く気配がして、カサリと、ちぢれた葉っぱが足首に触れた。  驚いて足を引き、そのまま数歩後ろに下がる。  葉っぱは動かない。でも私が少し目を離すと、またカサリと、ちぢれた葉っぱが足首に触れる。  私はなんだか無性に愉快な気分になった。  この葉っぱはどこまで着いてくるのだろうかと、帰りの道のりは少しゆっくりと歩いてみることにする。時々立ち止まってじっとしていると、期待通りにカサリと足首に感触がする。  そしてとうとう、ちぢれた葉っぱは私の家まで着いてきてしまったのだ。  愉快な気分のままで、家の中に入る。  まだ夜が明けるまでに時間があるから、もう一眠りしてしまおうと思っていた。  けれど、ベッドの上に投げ出された、見るからに高価な宝石やかなりの額のお金に目を丸くしてしまい、眠るどころではなくなってしまった。
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