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 夢を見た。  また、フルーフの本の夢だ。  以前見たものと、少しも変わらない。  真夜中に目覚め、私は簡単に支度をした。  身の回りの品で特に気に入っているもの、森では手に入らないものをざっとかき集め、袋に詰める。  一つの予感があった。  中身のつまった袋を持って外に出る。  月の光を浴びて、庭いっぱいに自生するアルラウネたちが、私の気配を感じたのか一斉にわさわさと葉を揺らした。私はなんだか無性に愉快な気分になる。  森に入ると、真っ直ぐ西に向かった。  はたして、サンザシの木の下に本はなかった。  サンザシを見上げれば、木々の間から月が私を見下ろし、笑いかけている。  念のため、ドアとマドの壊れたフルーフの家の中も探してみる。でも、そう広くもない部屋だ。すぐにここにもないことがわかった。  私にはわかっていた。  フルーフの本は、もう二度と私の元には戻らない。  テーブルに持ってきた袋を置き、中身を出していく。  今日から、たった今から、私はこの家に住むのだ。  森の外には、もう出ない。  ずっと考えていた。  それが今日になるとは思ってもみなかったけれど。    壊れたマドから赤い月が覗いている。
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