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◇ ◇ ◇
夜も更け、両親も含め皆帰ってしまった家の二階で、逸樹は拓海と二人だけの時間を過ごしていた。パーティーの終わった今の時間、あの賑やかさは嘘のように静かになっている。
ベッドを背凭れにして並んで座る二人は何をする訳でもなく、ただ楽しい余韻に浸り言葉を交わしていた。
「拓海くん。今日はありがとうね。すごく楽しかったよ」
「うん。逸樹さんに喜んでもらえたらな、俺も嬉しいよ」
昼間の楽しさを思い出し、笑顔を見せあう二人。色々と驚かされることはあったが、本当に楽しい時間を過ごせたパーティーだった。
「でも、本当に楽しかった。それにすごく嬉しかった。拓海くんが僕のためにあんなに楽しいことを考えてくれたのも、それに賛同してたくさんの人が集まってくれたのも」
逸樹は感無量といった面持ちで言う。
ここは祖母の場所で、祖母との思い出が詰まった場所。カフェを訪れる人にもそんな想いがあるんだと、逸樹は引け目に感じていた。しかし、今回の入院やパーティーで多くの人の優しさに触れ、自分がこの場所に認められ始めているように感じられた。
その切っ掛けを作ってくれたのは、他でもない拓海だ。それが何より嬉しくて、胸がいっぱいになる思いだった。
「……ねえ、拓海くん」
その感謝を体現しようと、逸樹は身体を寄り掛からせ自ら唇を寄せていく。ふわりと触れた唇は互いの温もりを重ねあうだけで、長く留まることなく離れていく。しかし、自分から離れていきながら、物足りなそうな瞳で訴えかけたしまう。じっと見つめてくる瞳が何を求めているのか察した拓海は、彼の頬に手を添え唇を重ねていく。そして、優しく求めあい、柔らかな感触を長く味わっていった。
「……っふ、……ん」
甘い吐息を口から漏らす逸樹は、離れていく唇を愛おしそうに見つめる。
「拓海くん……。僕、入院している間、本当に寂しかったんだよ……」
蕩けてしまうほどの甘いキスの余韻が、なぜか入院生活の寂しさを思い出させてしまう。
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