『高宮逸樹』

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「ごめん。俺が弱いばっかりに、見舞いに行く勇気が持てなくて」 「でも、仕方ないよね。だって、拓海くんは優しいから。優しすぎて、自分を責めすぎちゃうから」  逸樹はクスリと微笑みかける。 「入院中ってね、夜になると真っ白な部屋に独りぼっちになるんだよ。すごく静かで何もないの。でも、不思議だよね。周りにも病室はあって、他の患者さんもいるし、看護士さんたちもいるんだよ。それなのに、自分の周りだけ隔離されたみたいな感覚になるんだよ。ほんと、病院って不思議な場所だよね」  決して拓海を責める気持ちなんてないが、逸樹は初めての入院で感じた不思議な孤独を興奮ぎみに伝えてしまう。 「でね、一人になると考えちゃうんだ。色んなこと。カフェのことだったり、今回のことだったり、昔のことだったり……。本当に色んなこと。けどね、結局行き着いちゃうのは拓海くんのことだった。今、何してるんだろう。僕のこと考えてくれてるかな? とか……色々」  逸樹が拓海の手に自分の手を重ねていく。想いを馳せながらも、触れることのできなかった温もり。それを強く感じようと、離したくないとばかりに、しっかりとした力で拓海の手を覆っていく。 「俺も考えてた。逸樹さんのこと。大丈夫だったかな、元気になったかな、……こんな俺のこと、どう思ってるんだろって……」  その言葉に繋がれた手に力がこもる。 「よかったぁ。拓海くんも僕のこと考えてくれてたんだね」  はにかんだ逸樹はチュッと頬にキスをする。 「……でも、これは考えなかったでしょ」  イラズラっぽく微笑んた逸樹は、重ねていた手を離すと、おもむろに拓海の股間へと伸ばしていった。そして、ズボンの上からやわやわと下にあるモノを撫で始めた。 「――いっ、逸樹さんっ!?」  突然の行動に動揺してしまい、拓海の声が上擦る。そうしてる間に逸樹の細い指がファスナーを下ろし、ズボンの中へと手を忍ばせ指を這わせていく。 「逸樹さんっ! 急にどうしたのっ!?」  突然の積極性に慌てる拓海。逸樹はぐっと身体を寄せ、上目遣いで見上げる。
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