『高宮逸樹』

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 ◇ ◇ ◇  ――カラン。今日もドアベルは心地よい音を店内に響かせる。  そして、カフェに入ってきた彼に、逸樹は誰よりも輝いた笑みを送る。 「逸樹さん、今日もコーヒーとオススメケーキお願いします」 「はい。ちょっと待っててくださいね」  二人は見つめあい、ケーキよりも甘い空気を漂わせる。  ここは二人にとって出逢いの場であり、大切な場所。  だけど、この場所を大切に思っているのは二人だけではない。  甘い香りに包まれた店長の高宮逸樹は、柔らかな微笑みで客人を迎え入れる。導かれた人は皆、この場所に安らぎを感じて穏やかに気持ちになり笑顔になっていく。  多くの人にとって祖母との思い出だったこの場所は、少しずつ逸樹との場所に変わり始めていた。だけど、それは寂しい変化ではなく、明るく前向きな変化。  逸樹は少しずつ変わっていく生活を楽しみながら受け入れ、今日もカウンターに立つ。 「いらっしゃいませ。カフェ・フォレストにようこそ」 【終わり】
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