第1章

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FBI側が自制を求めても、人海戦術による捜索の優位性を主張しやめないだろう。結論として止められないなら、無駄な軋轢を作らないほうがFBIとNYPDの今後のためにもいい。  コールはユージと拓に30分後のテレビ会議の用意を命じ、解散した。  支局長室を出たユージと拓の前に、好奇心に瞳を輝かせたサクラが立っていた。 「面白くなってきたねぇ~♪ <24>突入か! ホレホレ、サクラちゃんにも件の<マリア>を見せてみい」 「…………」  自分自身に火の粉がかからない事件は、サクラにとって絶好の遊びであり楽しみだ。  実はさっきの支局長室に、サクラは入っていた。<非認識化>を最高にしていたのでコールは気付かなかった。むろん、ユージと拓は気付いていたから、こうなる事は分かっていた。拓が自分の分の写真をサクラに手渡した。そして自分たちのデスクに戻っていく。 「……かわいいじゃん。アレックスのアホめ、何が『容姿は標準かそれ以下、もしくは問題あり』だ! 外してンじゃん」  歩きながらサクラはにんまりと笑う。サクラとアレックスは面識があるが、サクラはアレックスを毛嫌いしている。 「それ以外は大体合っているよ」と拓はフォローする。 「テレビ会議には来るなよ。アレックスに見つかると面倒だからな。お前は家に帰れ」  サクラの<非認識化>は実際姿を消せるわけではない。カメラやモニター越しだと無力だ。こっそり同席していても気付かれる。 「ここまできてヤダ!」 「俺たちの飯を取って来い。エダが弁当作ってくれるはずだ。それに奴は俺を名指ししてきた。エダが危険になる可能性が出てきた」 「ふむ…… それは確かに一理ある。オナカは空いてきたし」  ユージの言う事は分かる。  <狂犬>がユージの名前を出した以上、24時間経ってもユージたちが<マリア>を見つけられなかった時、次に狙われる可能性がもっとも高いのはエダだ。『エダに手を出す事は許されない』という裏社会の暗黙の掟など<狂犬>は意にも介さないだろう。  サクラはさらにユージの、口にはしない作戦も感じ取った。  焦った<狂犬>が24時間まで待つとは限らない。もっと早くエダに接近してくるかもしれない。だが今エダにはJOLJUがピッタリついているしエダ自身危険察知能力は高い。予め自分が狙われている、と知れば自分で自分の身を守る対策は取れるだろう。
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