第1章

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 拓に対して全く敵意はもっていなかった。それを確認し、拓は撃鉄をデコッキングし元のダブルアクション・ポジションに戻し構えを解いた。銃は握ったまま。 「職務上大変不快な思いをさせますが、今回の案件に限り我々は同盟関係にあると聞いております。危害は加えませんので安心してください」 「<狂犬>を仕留めたのか?」  拓はそこらじゅうにある大量の血の跡を見ながら進み寄った。だがそうでない事は一目瞭然だ。軽く見ても3、4人分の血は流されているだろう。よく見れば弾痕や空薬莢もそこらじゅうにある。戦闘の跡というより虐殺だ。 「この惨状の説明を求める」 「<狂犬>を飼っていた雌豚を始末したところです」  そういうと男たちはその場にSMGを置き、拓をフロアー奥にある一つの部屋に案内した。その部屋では、椅子に縛られ額を撃ちぬかれた40歳前後の女性の死体があった。打撲跡や切断された指など拷問跡が凄まじく、思わず拓は顔を背けた。  拓の様子を見て、男のうち一人は彼女の屍に自分の上着をかけた。 「<ローズガーデン>売春クラブのオーナー、マリー=ガドナーです。ご心配なく。我々が殺害いたしました。これより自首いたします」 「表向きは個人的な怨恨による我ら二人の勝手な殺人です。ですが本来、我々は情報を得るためここに来ました。その情報をファミリーやクロベ捜査官に提供するまでが本来の任務です。貴方がここに来てくれたことで手間が省けた」  彼らは無愛想で事務的だ。マフィアはこういう汚れ仕事を淡々と事務的にこなす人間を一定数抱えている。彼らはけして警察で真相は話さないし、ちゃんと服役もするし死刑にもなる。拓だって不条理と不快感を隠しきれず表情は苦りきっていたが、それでも文句は 言わず黙っている。彼らも命じられたに過ぎない。 「その情報を、まず聞かせてもらいたい」 「今述べたとおり、この通称<マダム>は<狂犬>を匿い利用していた」  男はそういうとポケットから携帯電話を取り出し、<マダム>の……時折悲鳴交じりの……自白を、拓に聞かせた。  音声データーの全てが再生し終えると、証拠である携帯電話からメモリーカードを抜き取り、男はそれを真二つに割り、さらにライターで炙り完全に破壊した。 「残念ながら、今はもう<狂犬>がどこにいったかは分かりません。クロベ捜査官に今の一件を伝え、適切な対処をファミリーは望みます」
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