第1章

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「彼女が<狂犬>をけしかけて利用していたというなら、お前たちはユージを利用して手を汚さない…… どっちもどっち、腹黒さは変わらないよ」  拓は軽蔑を込め言った。そして拓は廊下で待つデトリスを呼び、二人を殺人の現行犯で逮捕した。ここでようやく応援が呼ばれ、一時間後には殺人課と風紀課の刑事、そして鑑識課が入り込みちょっとした騒動となった。だがその頃には拓とサクラはもうこの現場にはいなかった。   「事態の掌握ができているのか、いないのか」 「支局長。断っておきますが、俺は、今日は誰も殺していませんよ。ずっとワシントンDCに行っていたンですから」  午後4時。NY支局に戻ったユージは早速コール=スタントン支局長に呼び出された。ユージもNYを戻る前に拓からマリー=ガドナーの一件を聞いている。だから呼び出される事は予想していた。そして予想通りユージはワシントンでの報告をする前にコールの叱責が待っていた。 「マリー=ガドナーの一件はマフィアや組織の仕置きです。ガドナーは売春組織を運営していましたが、海外に女を派遣する際、同時にヘロインや合成麻薬の運び屋をさせていた。シーゲル・ファミリーやジョンソン・ファミリーの利権を侵しています。おそらく裏社会で軋轢が生じていたのでしょう。身の危険を感じていたガドナーは、たまたま自分のところに転がり込んだ<狂犬>を利用し、敵対者を殺害させた」 「その報復が、イーストダウンタウンでのマリー=ガドナー他売春婦虐殺に繋がるわけだな。その件でファミリーを検挙できるのかクロベ」 「できませんね。奴らはちゃんと容疑者を差し出しています。秘密協定は守っています」  ユージに限らず警察上層部と大物マフィアとの間には秘密の協定がある。マフィア内の殺人事件について、一般人が巻き込まれない限りは容疑者を差し出せばそれ以上警察は介入しない、という暗黙の協定だ。この協定によって警察とマフィアの全面戦争は起きない構図になっている。むろんFBIもユージ個人も同じ協定を結んでいる。ファミリーはちゃんと容疑者を差し出したから、協定は守られている。  コールもユージと共に犯罪組織撲滅に動き、クロベ・ファミリーと裏社会の不可侵協定を結ぶのに立ち会った男だ。事情は理解している。
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