第1章

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「じゃあ<狂犬>は野放しになったわけだな」とコール。 「今回のガドナー殺害で、<狂犬>はより一層マフィアを狙うでしょう。もう標的など関係なく暴れ狂う可能性が高い。もし<狂犬>を捉える事ができるとすれば、奴が探している<マリア>を確保する事です」  コールも頷いた。そしてその場でユージにNYの組織犯罪対策部と犯罪心理分析部を指揮する権限を与えた。 「何がただの殺人事件だ。少なくとも4人か5人は殺されていたゾ、あの現場」  ユージのデスクでホットチョコレートを舐めながらサクラは溜息をついた。 「ガドナー以外の遺体は運び出された後。死体がなければ殺人事件にならない。そしてマフィア案件の事件でFBIも絡んでいるとくれば警察も深入りはしない」  そう言いながらユージは自分のデスクに腰掛け紙コップに入ったコーラを飲む。隣りのデスクは拓だ。拓は緑茶を飲んでいた。二人は各方面に強い影響力を持ってはいるがFBI捜査官としては中の下で、個人用に部屋を貰えるほど偉くない。事件の打ち合わせも自分たちのデスクがある平部屋か、会議室を利用する。 「ま、立件する気がないみたいだから関係ないけど、一応言うとくと殺されたのはみーんな20歳から30歳の売春婦5人。殺したのはあいつ等。まず問答無由で虐殺があって、それから女社長は一時間ほど拷問を受けた。で、殺された」  <非認識化>で消えていたサクラは、拓とマフィアの殺し屋が対話している最中、血溜りの数や場所を見て回り、場所によってはサイコメトリー能力で実際に起きた殺戮を透視したりした。むろんサクラの能力で知った情報は法的根拠がないから立件したくてもできない。ユージたちにとって「ガドナー殺人事件」は終わった事件だ。 「んで? これからどーすんの? 捜査」当たり前のような顔で報告書を手に取るサクラ。この後も関わる気満々だ。 「どうするも何も、手がかりが一つ消えた。マフィア連中もアテにできん」  ジョンソンが情報を寄越す、と言ったがそれは明日の朝。しかしそのマフィアたちの手の者によって情報源であるマリー=ガドナーこと<マダム>は拷問の末に殺された。しかし拓に<狂犬>について何も情報を寄越さなかったところを見ると、マフィア側でもまだ<狂犬>の行き先については掴んでいない。
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